降りしきる雨の中、桐生さんは傘をささない。

中学の時に美冬がヤンチャしてたって噂は、この高校じゃ有名な話で、過去に喧嘩を吹っ掛けて美冬に負けたって人も、この校内に何人か居るらしい。


『あ?んなもん知るかっつーの。弱ぇ奴の顔なんていちいち覚えてねーわ』って、美冬は全く覚えてないっぽいんだけどね。


──── こうやって、ふとした時に思い出す。

あの日のことを──。


「ねぇ、美冬」

「んー?」

「……無理してない?」

「はぁ?なにがー?」


相変わらずガムを噛んでいる美冬。

美冬が常にガムを噛むようになったのは、きっと……私のせい。


「……『左手が疼くぜ……』みたいな」

「あ?馬鹿にしてんの?」


鋭い眼光で睨み付けてくる美冬。


「ごめんごめん」


私は今、うまく笑えているのかな。


「……はぁぁ。そんな顔すんのやめてくんなーい?別に、梓がどうのこうのってわけじゃないってー。退学とか普通に勘弁でしょ~。そんだけの話」

「……そっか」


──── あれは、高校入学前のことだった。


忘れられない。

今でも鮮明に覚えている。

あの、全身から血の気が引いていく感覚。

生きた心地がしなかったのを──。