降りしきる雨の中、桐生さんは傘をささない。



──── 6月も下旬に差し掛かろうとしている。


変わらず雨の日が多くて、相変わらず桐生さんは傘をささない……というか、傘を買わない。

朝タイミングが合わないと傘を貸せない日があったりして、大概そういう日は降りしきる雨の中、桐生さんは傘をささず、ずぶ濡れ状態になっている。


「ちょっ、桐生さん!!」

「帰って来たか」

「いや、『帰って来たか』……じゃなくて!!」


意味は全く無いだろうけど、ハンカチで桐生さんのスーツを拭く。

この無意味な行為も何回目だろうか……。


「悪いな」

「悪いと思うなら、傘買ったらどうですか?」

「買わねえ」

「ですよね、分かってますよ」


少しムスッとすると、鼻で笑って私の頭をポンポンする桐生さん。

まるで、拗ねた子供をあやすように。


・・・・私、子供じゃないんですけど。


「子供扱いしないでください」

「別に、そういうことじゃねぇだろ」

「……はぁぁ。もうなんでもいいですけど、いい加減にしないと風邪引きますよ?私の傘あげるって、何回も言ってるじゃないですか」

「要らねえ」

「分かってますよ。それも何回も聞きましたーー」