降りしきる雨の中、桐生さんは傘をささない。

少しイラッとしながらも、顔を逸らしてそう答えた。


「違ぇよ。変わってんなってこと」

「……あの、唐突な悪口やめてくれませんか。私、慣れてないんですよね。こういうの」

「あ?褒めてんだよ」

「どこがっ!?」


────── 桐生さんと目と目が合って、我に返った私。


血の気が引いたのは言うまでもない。


「……ゴメンナサイ」


喉を絞ったような声しか出なくて恥ずかしい……。


「怖くねーの」

「え?」


桐生さんを見ると、どんよりした雲が分厚く覆った空を見上げて、出会ったあの日のような表情をしていた。


「避けるだろ、普通」

「……えっと、何がですか?」

「俺のこと」


──── ああ、そういうことか。


『“ヤクザ”なんて怖いだろ。普通だったら避けるもんなんじゃねーの?なんでお前は普通に接してくんだ?変わってんな』……ということ……かな?


・・・・言葉足らずだなぁ、桐生さん。


「正直、怖いですよ。でもそれは、“桐生さんが凄く怖い”ってわけじゃなくて。まぁ……その、“業種”って言うんですかね……。それはちょっと……私には未知な世界だから……怖い……という感じです。はい……」