降りしきる雨の中、桐生さんは傘をささない。

「桐生さん。私は月しっ……」

「月城 梓」

「……あ、はい。月城……梓です。よろしくお願いします」


・・・・なんで私のフルネーム把握済みなの?なんて、聞くまでもないか……。だってこの人、ヤクザなんだもん。名前の一つや二つ、すぐに調べが付くよね。


「カレー、ありがとな」

「あっ、いえいえ。じゃあ……お邪魔しました。おやすみなさい、桐生さん」

「ああ」


そして、やっぱり頭を撫でてくる桐生さん。

・・・・本当によく分からない人だなぁ。


──── 翌朝。


エントランスへ行くと、高そうなスーツに身を包み、相変わらず何を考えているのか分からない表情をしている桐生さんがいた。

でも、初めて会ったあの日の“物憂げ”な雰囲気とはまた違う。

あの日は憂鬱そうな、気が塞ぐような、とても退屈そうで、気だるそうな、そんな雰囲気だったから。


「桐生さん。おはようございます」

「ん」


素っ気ない返事だけど、ちゃんと私の目を見ている桐生さん。


「今日も雨ですね」

「…………お前、普通だな」


──── はい?


それは一体、どういう意味でしょうか。

『平凡な女だな』……という解釈をすればいいのかな。


「そう……ですね。平凡だと思いますよ」