降りしきる雨の中、桐生さんは傘をささない。

戻ろう……そう思った時、ガチャッと玄関ドアが開いて、バッチリお隣さんと目が合う。

咄嗟にタッパーを後ろへ隠した。


「あ、あっ、あのっ!!ご、ごめんなさいっ!!」

「どうした」


・・・・こうなったら、一か八か!!もう渡すしかない!!


「あの、チョコレート……ありがとうございます。私、チョコレート大好きで……ははっ」

「そうか」


──── やっぱ無理ぃぃーー!!渡せない!!


「匂うな」


・・・・え……臭う……?

えぇえっ!?私、もしかして臭い!?今日汗かくようなことしたっけ!?

あーーもうっ、最っ悪だ……穴があったら入りたい、切実に……。


「臭くてすみません……本当に……」


合わせる顔が無くて、深々と頭を下げた。


「なに言ってんだ、お前」

「すみません。自分が臭いことに気付いてなくて……」

「あ?」


ゆっくり顔を上げると、めちゃくちゃ真顔のお隣さんが私をガン見していた。


「だって……『臭うな』って……」

「お前のことクセェなんて一言も言ってないだろ」

「だって、『臭うな』って言ったじゃないですか!!」


思わず声を張り上げてしまった自分を殴りたい。こんなの逆ギレじゃん……恥ずかしい。