降りしきる雨の中、桐生さんは傘をささない。

『俺よりは短いってだけで、お前の身長からしたら短くはないだろ』……ってことですか!?


「あ、ありがとう……ございます」


私は今にも消えそうな笑みを浮かべてお隣さんを見上げた。

お隣さんは何も言わず、真顔で私をジーッと見つめて、再び歩き始める。


・・・・・・本当に掴めない人だなぁ……。


「運んでもらっちゃってすみません。ありがとうございました」

「ついでだ」


『ついでだから気にすんな』……ということですかね?


「ありがとうございます。じゃあ……また」

「ん」


私の頭をポンポンッと撫でて、そのままエレベーターの方へ姿を消したお隣さん。


「…………『ついで』とは?」


全くついでじゃないよね。

それに……なんで頭を撫でてくるんだろう。

お隣さんの大きな手に撫でられた頭に触れて、ポーッと廊下に立ち尽くす私。

言葉足らずのぶっきらぼうさんが、優しく頭を撫でてくるとか……。


「ギャップすご……」


同年代の男子とは違って、大人の男の人って凄いな……と、謎に感心しながら玄関の鍵を開けて、重い荷物を持ちながら中へ入った。


──── あれから数時間後。


夕飯のカレーを作り終えた時、ピンポーンッとインターフォンが鳴る。