降りしきる雨の中、桐生さんは傘をささない。

私があまりにも前のめりになっているせいか、若干引き気味な表情をしている美冬。


「いや、別に……確証があったわけでないんだけど、梓ん家に行く時とか帰る時、それっぽい男とごく稀にすれ違ったりすることがあってさ。『コイツ、ただ者じゃねぇな』って思ってて。へぇ~、マジであっち系だったんだ。ウケるね~」

「なんっにも面白くはないんだけどね、私は」

「ハハッ!!だろうね~。雫さんにバレたらヤバくね~?」


ヤバいも何も、引っ越すだの何だのって煩いだろうなぁ……間違えなく。あのマンション気に入ってるから引っ越しは避けたい。

それに、実害があったわけでもないしさ、何かしてくるような人でもなさそだし?あのお隣さん。


「お母さんには内密で……お願いっ!!」


手を合わせて必死にお願いする私。

美冬はズズーッと音を立てながらカフェオレを飲みきって、近くに置いてあるゴミ箱へポイッと投げた。


「なんかあったらすぐあたしに言うこと……これが守れんならいいよ、黙っといてあげる」


目を細めて、優しく私に微笑む美冬。


──── 可愛くてカッコいいって何事か。


私は何度も何度もコクコクと頷いて、改めて“美冬”という存在の大切さ、尊さに気付いたのは言うまでもない。