降りしきる雨の中、桐生さんは傘をささない。

ドキッ……と胸が弾む。

緊張するというか、大人の色気というか……とにかく容姿が整いすぎてて、良い意味で心臓に悪い。


「ん」


・・・・『ん』……とは?『おはよう』って解釈でいいのかな。

“相変わらずぶっきらぼうですね”……なんて、死んでも言えない。


「傘……なんでささないんですか?」

「ない」

「……ない?傘、持ってないんですか?」

「ん」


──── いやいや、なんで傘を持ってないの。


「フロントの人に言えば貸してもらえるかと……」

「問題ねえ」


──── いやいや、風邪引くよ?というか、高いスーツがびしょ濡れじゃん。毎日毎日クリーニング出すのも大変じゃない?


「あの、良かったら使ってください。あげます」


カバンから折り畳み傘を取り出して、お隣さんに差し出した。


・・・・あ、男の人には折り畳み傘は小さい?……と、差し出した後に疑問に思ったけど、差し出しちゃった手前、もう引っ込めることができない。



「お前、危なっかしいな」

「……へ?」

「気を付けろよ」


なんて言いながら、私が差し出した折り畳み傘を顔色一つ変えず受け取るお隣さん。