降りしきる雨の中、桐生さんは傘をささない。



──── “お隣さんがヤクザだった”という衝撃的な事実を知った翌日。


ほんの少しばかり警戒しつつ玄関を出て、廊下を歩き、エレベーターに乗った。


「……はぁぁ。“お隣さんがヤクザでした”……とか、パワーワードすぎるでしょ」


誰もいないエレベーターの中で、私の虚しい声が響く。

・・・・まぁ、数年住んでて今まで会ったことがなかったわけだし、これからも会う確率なんて、ほぼ“ない”に等しいはず……はず……はずなんだけど……はずだったんだけど……。


「いやぁ……なんで居るのぉ……」


エレベーターを降りて外へ向かうと、降りしきる雨の中、傘もささずに立ち尽くしているお隣さんが視界に入った。

ていうか、なんで傘をささないの……?

風邪引かない?

もしかして、傘を持ってない……とか?


─── でも、ただのお隣さんだし、私には関係ない。


見なかったことにして、スルーするのが無難。

そう思う反面、お隣さんのことが気になって、放っておけなくて、私の足はお隣さんの方へ向かっていた。


「あ、あのっ……!!おはようございます……」


後ろからそう声を掛けると、ゆっくり振り向いて私をジーッと見つめてくるお隣さん。