降りしきる雨の中、桐生さんは傘をささない。

「さっさと風呂入れ。風邪引くぞ」


らしくねぇことして、らしくねぇことまで言って、アホらしいと思うと同時に、“確信”へ近づく。

そして、確信へ近づくとやはり“躊躇い”が生じる。


・・・・月城 梓に出会ってから、マジでらしくねぇことばかりだな。


この場を去ろうとした時、何故か俺を呼び止めた月城 梓。

俺が隣人であることに、全く驚きを隠せていない。まあ、俺も過去イチっつっても過言ではないレベルでビビったけどな。


「あの……つかぬことをお聞きしますが、ヤクザですか?」


・・・・そうか。まあ、バレるわな。


「だったらどうする」


──── これでもう、月城 梓が俺に関わってくることもなければ、話しかけてくることもないだろう。


ガチャッと閉まった玄関ドアにもたれ、ため息を吐く。


「…………ガキ相手にアホだろ」



──── “特別は作らない”……それを長年貫き、なにかとバランスは取れていた。だか……その均衡が、“月城 梓”という存在によって、呆気なく崩れ落ちていく。



「吉と出るか、凶と出るか」


・・・・いや、そもそもあっちが俺を避けるだろ。


「……はっ。マジでアホらしい」