降りしきる雨の中、桐生さんは傘をささない。

傍に居れたらそれだけでいい、近くで見守れたらそれだけで……と、何も望まずにいられるのか?



──── そもそも、この気持ちは一体なんなんだ?



それを確かめる為にも、もう一度会う必要がある……月城 梓に──。


マンションへ戻って、玄関ドア前で待ち伏せをしていると、人の気配が近付いてくる。

見るまでもなく、“月城 梓”だと分かった。

チラッと視線を向けると、“なんでアンタがここに居るの?”と驚いたような表情を浮かべ、どう対処しようか考えている様子の月城 梓。

濡れて鬱陶しい前髪をかき上げながら、月城 梓の透き通るような澄んだ瞳を捉え、俺が数歩進んで立ち止まると、意を決したように、しかめっ面をしながら立ち向かって来る。


「あの、なんなんですか?」


俺を見上げながら睨み付けてくるという、予想外の行動をしてきた月城 梓に、思わずフンッと鼻で笑っちまった。


「傘」


俺が押し付けられた傘を差し出すと、拍子抜けな表情をして、少し戸惑っている。


「あ、どうも……ありがとう……ございます」


俺に礼を言う姿が、どうにも無性に愛らしくて、気付けば月城 梓の頭頂部にポンッと手を置いていた。