降りしきる雨の中、桐生さんは傘をささない。

「おい、木村」

「はい。なんでしょう」

「南高校、“月城”の詳細……今すぐ調べろ」

「先程の女子高生ですか?」

「ああ」

「……そうですか。10分ほど時間をください」


車に戻って10分も満たない内に調べ上げた木村。


「……誠さん。月城の詳細です」


何故か神妙な面持ちで、俺にタブレットを渡してきた木村。

木村がその表情になった理由が、タブレットを見てすぐに分かる。


──── マジか。こんな偶然あんのかよ。


「誠さん宅の隣人ですね。あの子……月城さん」

「うぇええー!?マジっすか!すげぇ~偶然すねぇ!!」

「どうするんです?若。これはきっと、赤い運めっ……」

「船越、黙れ。長岡、俺はマンションへ戻る」

「くくっ。へいへ~い、送って行きますよぉ~」


木村・船越・長岡でヤンヤヤンヤと盛り上がっている車内。俺はそれをガン無視して、ただ“月城 梓”のことだけを考えていた。


“誰にも譲りたくねえ”

“誰にも奪わせはしない”


沸々と沸き上がるこの感情とは裏腹に、『この理不尽で不条理な世界に、本当に巻き込んでいいのか?』という気持ちが入り交じる。


・・・・“特別”は、“何時でも手放せるように”……そう割り切ればいいのか?