降りしきる雨の中、桐生さんは傘をささない。

その強い欲求が抑えきれず、目を逸らすことなく女のもとへ向かった。


────── つーか、無駄に容姿整いすぎだろ。


俺に見下ろされ、俺を見上げている女。

シンプルに『綺麗な女だな』と思うと同時に、『コイツが欲しい』と心の奥底から思った。


“コイツを逃したら俺は絶対に後悔する”……そう断言できる。


『特別は作らない』……いや、こんなもん“理屈”じゃねえだろうが。


俺はただ……“本能”に従う。


────── で、本能に従った結果、傘を押し付けられて逃げられた。


「あーーあ。逃げちゃいましたねぇ~」

「若、あのJKなんなんですか?」

「重要参考人……でしょうか。どうします?誠さん。追いましょうか」

「……いや、いい」


別に怖がらせたいわけじゃねーし、重要参考人でもねえし。

俺を危険視してこの場から逃げたやつを追ったら、尚更ヤバい奴みたいな扱いされんだろ。

何処の高校へ通ってんのかは制服で分かった。調べようと思えばいくらでも調べられる。

もう逃がすこともない。

焦る必要もねえだろ。


──── それに……傘の玉留め部分に“月城”と、ご丁寧に書かれている名前シールが貼っ付けてあった。


もう、見失うことはない。