降りしきる雨の中、桐生さんは傘をささない。

「ちょいちょい木村(きむら)さん。俺の話を端っからガン無視すんのやめてくれませ~ん?」


『いつだったかの美女』……俺にはあの女しか浮かんでこないが、長岡のことだ……どうせキャバクラの女か、クラブの女の話をしてんだろ。


「興味ねえ」

「ええ~?横断歩道で老人を助けてた女の子~。あの美女のことっすよぉ?ほら、レベチだったじゃないっすか~」


『横断歩道で老人を助けてた女の子』その言葉だけで、ドクンッ……と胸が高鳴った。


「その女がどうした」


俺がそう言うと、長岡・木村・船越が目を見開きながら一斉に俺を凝視する。


「……つーか長岡、前向いて運転しろ。俺を殺す気かテメェは」

「え、あっ、すんません」


慌てて前を向き、しっかりハンドルを握り直した長岡。


「で、その女がなんだ」

「あの若が……女に興味を持つなんて……」

「大雨が降るかもしれませんね……厄介です」

「そんな顔で見んじゃねぇよ。鬱陶しい」


“驚愕”と言わんばかりな顔をして、どこか拍子抜けした表情をしている船越と木村。


「もしかして誠さん……ロリコンっすか?」

「殺すぞテメェ」