降りしきる雨の中、桐生さんは傘をささない。

・・・・さっき貰った万札を募金するつもりなのか?この女。


こういうのを“偽善者”と罵る奴もいるだろう。だが、この女はおそらく“偽善者”とは違う。

誰もが見て見ぬふりをしていたあの状況で、迷わず老人に手を差し伸べた。

ただただ“純粋”に、老人を“助けたい”という気持ちだけで、体が勝手に動いたパターンだろうな。

あの様子じゃ、本当に見返りを求めていたわけでもないだろう。

だいたい謝礼の募金だって、この俺が尾行なんてしてなければ誰に知られることもなく、この女はしれっとやってたんだろうしな。


───── ごちゃごちゃと女のことを考えれば考えるほど、どうしようもなく気になって仕方ねえ。


「ありがとうございました」


そう言いながら軽く会釈をして、銀行から出ていった女を追うかどうか躊躇った。


───── 『あの女を逃したら一生後悔する』


その衝動に強く駆られ、柄にもなく焦りながら外へ出た。

目を凝らしながら周りを見渡したが、もう既にあの女の姿はない。


「……チッ」


後悔が苛立ちに変わっていく。

なんであの時、すぐに追わなかった。なんで躊躇っちまったんだよ。