降りしきる雨の中、桐生さんは傘をささない。

「……そう……ですか。分かりました。ありがとうございます」

「じゃあね。ありがとう」


老人は嬉しそうな表情を浮かべながら、ゆっくりと去っていく。


──── 押し問答を続けるわけにもいかねぇし、ああするしかないわな。


ま、所詮は万札貰えて喜んでんだろ。

チラッと女の方へ視線を向けると、受け取った謝礼の万札を眺め、何やら考え事をしている様子だった。喜ぶどころか、なんなら困ったような顔をしている。

そして、何かを決めたようにスタスタ歩き始めた女の後を追って、一定の距離を保ちつつ尾行した。

野郎共がチラチラと女を見て、俺とすれ違う時に『レベル高ぇ』だの『めちゃくちゃ可愛くね?』だの『美人だったな』だの、あれこれ騒ぎ立てている。

まあ、遠目からでも容姿が整っているのは明白。


「……銀行か」


女が入っていったのは銀行だった。


──── つーか、若い女の尾行なんざ、よくよく考えたらヤバくねぇか。キモすぎんだろ、普通に。


とは思うものの、体は勝手に銀行の中へ。


「あの、募金したいんですけど────」


受付で募金がなんちゃらと会話をしている声が微かに聞こえた。