降りしきる雨の中、桐生さんは傘をささない。

鞄からタオルを取り出して、桐生さんの頭を拭こうとした時だった。

私の手を強く握って、私の目をしっかり見てくる桐生さん。


「悪い、梓。仕事でトラブった挙げ句、スマホぶっ壊れて連絡取れなかった。他の端末から連絡しても、怖がらせちまうと思って。悪かった」

「……桐生さんが無事なら何だっていいですよ」

「悪い」


きっと、『俺のせいで不安にさせて悪い』ってことだと思う。


「ほら、拭いてっ……」

「梓……誕生日おめでとう」

「……え?」


予想外の言葉に、目が点になる私。


「遅れて悪い」

「な……んで……私、教えてないのに……」

「あ?知らねぇはずがねえだろ」


──── これでまた、梅雨嫌いの要因が一つ無くなった。


私も単純だなって思うけど、それでも好きな人に『誕生日おめでとう』って言われるのは、とっても嬉しいし、“特別”で“格別”。


あんなにも“誕生日なんて無くなればいい”……そう思っていたのに、全てが覆ってしまった。


「今夜、空いてるか」

「え、あ、はい。空いてます」

「そうか」


──── それから高級ホテルでディナーして、最上階の部屋に連れて来られた。