降りしきる雨の中、桐生さんは傘をささない。

そうは思っても、あの女への好奇心が止められそうにない。


「止めろ」

「え?なんすか~?」

「車止めろ」


俺がそう言うと路肩に車を停めて、ルームミラー越しに長岡がこっちを見ている。


「先に戻ってろ」

「いやいや、会合がっ……」

「戻ってろ」

「……はぁぁ。へいへ~い」


面倒くさそうな顔をして、『早く降りろ』と言いたげな長岡。

俺が車から降りると、すんなり車を発進させ去っていった。


・・・・あの女がまだあの周辺に居るのかも分かんねぇのに、何をやってんだか……馬鹿馬鹿しい。そう思いながらも来た道を戻る。


「ちょっとだけど……これ、受け取ってちょうだい。お礼よ」

「当たり前のことをしただけなので、お礼だなんて……その気持ちだけで十分です。ありがとうございます」

「いいのよ、老い先短いんだから。あの世にお金は持っていけないもの。受け取ってくれると助かるわ」

「いや、でも……受け取れません」


謝礼を渡したい老人と、その謝礼を受け取りたくない女が押し問答をしていた。


「嬉しかったのよ。あなたみたいな優しい子に手を差し伸べられて。おばあちゃんからのお小遣いだと思って。ね?受け取ってちょうだい」