降りしきる雨の中、桐生さんは傘をささない。

「……え、なに……かーわーいーいー!!なぁにこれ!!めちゃくちゃ可愛いじゃない!!きゃあーー!!最高!!めっちゃ嬉しいーー!!」


ハイテンションで私の頬を摘まんで、こねくり始めた紗英子さんに唖然とするしかない私。


「触んな」


ベジッと紗英子さんの手を払って、私の頬を撫でながら顔を覗き込んでくる桐生さん。


「大丈夫か」

「……え、あ、はい……」

「うわぁ……きっっしょ!!弟のラブシーンほど気持ち悪いものはこの世に無いわね」



────── 『弟』……?


え、え、え、ええええーーーー!?!?


紗英子さんって、桐生さんのお姉さんだったのぉぉ!?


「見せもんじゃねえ。さっさと帰れ」

「アンタは黙ってなさい。で、可愛い子ちゃん?本当にこんな男でいいの?見てくれと金持ってるくらしいしか取り柄がないし、女心なんて死んでも分かんないタイプよ?コイツ」

「マジで黙れっ……」

「もっと他にいい男いるでしょ?勿体ないわ、こ~んなに可愛いのに」


──── 私はそんなことで桐生さんを好きになったわけじゃない。


「桐生さんは優しいんです。どこまでも優しくて、だから人一倍傷付いて……。それでも私のことを好きになってくれた人なんです。私はそんな桐生さんが、何も取り柄のない人だなんて思いません」