降りしきる雨の中、桐生さんは傘をささない。

「いえ、何でもっ……」

「これからもそうやって我慢すんのか」

「……」


桐生さんの瞳の中に私を映し出して、その力強い瞳は私を捉えて離さない。


──── 逃げるのはもうやめよう。この先も、桐生さんの隣に立つ為に。


「紗英子さんって誰ですか」

「……ああ」


ばつが悪そうな顔をして、私から目を逸らした桐生さん。


──── なにそれ。


「もういいです」

「あ?」

「もういい!!」

「……っ!!おい、梓!!」


玄関を開けて飛び出そうとした時だった。


「おっと……びっくり~」


玄関先に、とても綺麗な女の人が立っていた。


「紗英子」


背後から聞こえたその声に、胸がギュッと締め付けられる。


──── 嫌、嫌だ。


その声で、私以外の名前を呼ばないで──。


「私の電話を無視するとはいい度胸してんじゃない」

「来んなっつったろ」

「はあ?誰に口利きいてんのよ。わざわざ来てやったのに」

「来てくれなんて一言も言ってねえ」

「まあ、いいわ。で……この子が誠のお気に入り?」


そう言いながら私を爪先から頭のてっぺんまで、ジーーッと凝視する紗英子さん。