降りしきる雨の中、桐生さんは傘をささない。

「足りねえ」


私の顎を持ち上げて、そのまま唇を奪うと、容赦なく甘いキスを降り注いでくる桐生さん。


── “好き”が止まらない。“大好き”が加速していく。


大嫌いだったはずなのに、この梅雨時期が心底嫌いだったはずなのに、この時期がなければ私と桐生さんは、“恋仲”になっていなかったかもしれない。

桐生さんと出会って、お裾分けをし合ったり、傘を貸すようになって、この関係性がなかったら今頃どうなっていたんだろう……そう思うと、少し怖かったりもする。

私の心の中は桐生さんでいっぱいになって、梅雨の嫌な印象が全て塗り替えられていく。

私の世界が、桐生さんで染まっていく。


──── この時期も、悪くはないのかもしれない。


「考え事か?随分と余裕そうじゃねえか」


目を細めて、獲物を狩るようなギラギラした瞳で私を見下ろすと、唇を喰らうように激しく求めてくる。

・・・・私に余裕なんてあるわけがない。

心も体も桐生さんで満たされて、甘く絆されていく。


──── ていうか、桐生さんって……キス魔!?


「……っ、桐生……さんっ!」


限界に達した私は、桐生さんの胸元をトントン叩いた。すると、名残惜しそうに私から離れて、チュッと触れるだけのキスを唇に落とされる。