降りしきる雨の中、桐生さんは傘をささない。

「なんかあったらすぐ言えよ」

「くくっ。見た目とは裏腹に~とは、まさに誠さんのことっすねぇ」

「どういう意味だ」

「優しいってことっすよ~」


なんて言いながら、俺の隣でケタケタ笑っている長岡にイラッとして、容赦なく頭頂部を殴った。

声にならない声を上げて悶絶している長岡を横目に、駐車場へ向かう。

その後、ブツブツ文句を言いながら運転する長岡をガン無視して、人が行き交う街並みをボーッと眺めていた。


「うわぁ~、ありゃ渡りきれんでしょ~。俺達もあんな風になるんすかねぇ~」


信号待ちをしている時、長岡のその言葉で視線を前へ向けると、長い横断歩道をゆっくり渡っている老人がいた。

どう考えても渡りきれるわけがねぇだろ、あれ。

誰も手を差し伸べず、老人を避けて通るだけ。

ま、所詮はそんなもんだろうな。他人を助けて得することなんざねぇし。

それに今のご時世、何が起こるか分かったもんじゃねぇからな。下手に人助けもしたくねぇだろ。


「どうします~?誠さん」


車は次々と老人を素通りしていく。


「停めて待ってろ」

「へーい」


俺がドアノブに手を掛けようとした時だった。