降りしきる雨の中、桐生さんは傘をささない。

俺のせいで大切なものが奪われ、失うのが怖い。

要はただのヘタレ野郎ってことだな。


「ねぇ、どうしたの~?」

「別に」


ベッドから立ち上がって、身なりを整える。


「もう行っちゃうの?つれないわね」

「用は済んだ」

「ヤり逃げみたい」


俺は欲を満たせれば誰でもいい。

この女は俺とヤりたい。

これは利害の一致。

余韻に浸って馴れ合うつもりは毛頭ない。事が済めば、ここに居座る理由は何一つないだろ。

適当に金だけ置いて部屋から出ると、壁にもたれながらスマホをいじっている長岡(ながおか)が突っ立っていた。

俺の方をチラッと見て、スマホをポケットに入れながら妙にニヤニヤしている。


「相変わらず早いっすね~。誠さんって早漏すかぁ?」

「あ?殺すぞテメェ」

「ははっ。冗談すよ、冗談~」


この能天気な野郎は、死にそうになっていたのを俺が拾って、なんだかんだ流れで組に入ったような奴。


「……長岡。後悔してねぇか」

「え?何がっすか~」

「俺に拾われたこと」

「……なんつ~昔の話してんすかぁ。そんなこと心配しなくても、後悔なんて1ミリもしてませんよぉ~」

「心配なんざしてねえよ」


──── こういう奴ほど、堕ちる時は一瞬。


俺が拾ったからには最期まで面倒を見る責任がある。