──── 裏社会に身を置く桐生家に生まれた俺は、何不自由することなく生きてきた。
ガキの頃からこの界隈で育った俺は、この日常が“当たり前”で“普通”でしかない。
だが、一般人の“普通”とは掛け離れている……そう理解はしている。
だから、“特別”は作らない。
・・・・大切なものを失った奴等を何度も、何度も、この目で見てきた。
巻き込まないよう守ってきたつもりが、急襲や予期せぬトラブルに……なんてことはザラだ。
防ぎようがないことなんて山ほどある。
裏社会に限ったことではないが、表社会よりリスクが格段に上がるのは間違えない。
『こんな生業をしていなければ、こんなことにはならなかった』
この一言に尽きる。
『悔やんでも悔やみきれない』
あまりにも理不尽で不条理な世界。
そんな奴等をガキの頃から見てきた俺は、“特別”は作らないと決めていた。
“絶対”なんて言葉は存在しない。
100%守りきれる保証なんて何処にもない。
──── 理不尽で不条理なこの世界に、大切なものを巻き込むわけにはいかない。
・・・・なんて、聞こえは言いかもしれないが、俺は単純に逃げているだけ。



