降りしきる雨の中、桐生さんは傘をささない。



──── 裏社会に身を置く桐生家に生まれた俺は、何不自由することなく生きてきた。


ガキの頃からこの界隈で育った俺は、この日常が“当たり前”で“普通”でしかない。

だが、一般人の“普通”とは掛け離れている……そう理解はしている。

だから、“特別”は作らない。


・・・・大切なものを失った奴等を何度も、何度も、この目で見てきた。


巻き込まないよう守ってきたつもりが、急襲や予期せぬトラブルに……なんてことはザラだ。

防ぎようがないことなんて山ほどある。

裏社会に限ったことではないが、表社会よりリスクが格段に上がるのは間違えない。


『こんな生業をしていなければ、こんなことにはならなかった』


この一言に尽きる。


『悔やんでも悔やみきれない』


あまりにも理不尽で不条理な世界。


そんな奴等をガキの頃から見てきた俺は、“特別”は作らないと決めていた。

“絶対”なんて言葉は存在しない。

100%守りきれる保証なんて何処にもない。



──── 理不尽で不条理なこの世界に、大切なものを巻き込むわけにはいかない。



・・・・なんて、聞こえは言いかもしれないが、俺は単純に逃げているだけ。