降りしきる雨の中、桐生さんは傘をささない。



──── あん時……俺の感情は溢れ、歯止めなんざ一切利かなかった。


甘く、どこまでも甘く、何度も何度も欲しくなる。

体の芯から疼くあの感覚。

全身が熱を帯びて、どうしようもなく欲しくて、俺だけのモノになっちまえばいい……そう強く思った。

愛おしくて、愛おしくて、たまらない。


・・・・くれよ。お前の心も体も、全部俺に。


「チッ。何やってんだ」


俺の手を振り払って出ていった梓を、追いかけていいものか、俺には分からなかった。


「柄にもなく焦っちまったな……クソだせぇ」


──『ごめんなさい』って、どういう意味だよ。


「……完全にミスってんだろ、これ」


怖がらせちまったか?

嫌な思いさせちまったか?


・・・・梓。お前はどんな気持ちで、どんな思いで、俺のキスを受け入れたんだ。


梓の気持ちが一番大切で、梓の思いを第一に考えるのが大前提。

俺の気持ちも想いも、二の次であるのには変わりねえ。


──── だが、何よりも“俺の覚悟”がなきゃ意味ねえだろうが。


「……俺にできるか?“覚悟”っつーもんが」


いや、違ぇな。


「できるか?じゃねぇ……するんだよ」


もう後戻りはできねえ、いや……しねえ。