降りしきる雨の中、桐生さんは傘をささない。

「立てるか?」


桐生さんが大きな手を私に差し伸べている。

私はその手を取って、立ち上がった。


「歩けそうか?」

「はい。大丈夫です」

「そうか」


桐生さんの大きな手が私の手から離れて、ポンポンッと優しく頭を撫でる。

これがどれだけ私を安心させ、心を満たしてくれているか……きっと桐生さんは分かってないだろうな。


「あれ……不破さんは?」

「帰った」

「そうですか」


寝室から出てリビングへ行くと、綺麗に片付けられていて、不破さんの姿はもうなかった。


「アイツのことが気になるのか」

「え?」


ソファーに掛けてあったTシャツを手に取りながら、そんなことを聞いてくる桐生さん。

その横顔は相変わらず何を考えているのか分からないけど、声のトーンがなんとなく……寂しそう。


「それって……どういう意味ですか?」

「……いや、いい」


Tシャツを着て、私の頭を上に手をポンッと置くと、髪を少しワシャワシャしてきた。


「悪かったな」


それは何に対しての『悪かったな』……なの?

喉の奥に何かがつっかえるような、胸がぎゅっとするような……。それが苦しくて、もどかしい。