降りしきる雨の中、桐生さんは傘をささない。

私との距離を詰めてくる不破さんに後退りする。


「ねえ……梓ちゃん」


不破さんの手が伸びてきて、反射的に目を瞑ってしまった。

すると、少しだけ頭に触れられた感覚がして、クスクス笑っている声が聞こえたから、ゆっくり目を開けてみると……。


「くくっ。キャベツ……付いてたよ?」


不破さんがキャベツの破片を指で摘まんで、笑いながら私を見ている。


──── 完っっ全に遊ばれたぁぁ!!!!


「もぉぉ!!不破さん!!」

「ははっ。ごめんね?」


めちゃくちゃ焦ったのに、本当に信じらんない!!大人ってこんなもんなの!?


「あらら、怒っちゃったかな?」

「桐生さんも不破さんも距離感バグ人間すぎ!!」

「ええ?そうかな?」

「はぁぁーーーー」

「ははっ。そんな顔しないでよ~」


私は冷めた目で不破さんを見て、怒りを“キャベツを高速で切る”という行為で発散していた。


「梓ちゃんってさ、なんか意外だよね」

「何がですか」

「んーー。なんて言うかなぁ……凄く可愛いよね」


──── これって、何か試されてるのかな。


「ありがとうございます」

「くく。否定はしないんだね」

「押し問答したくないんで」

「ははっ。本当に面白いね、梓ちゃん」