降りしきる雨の中、桐生さんは傘をささない。

「梓ちゃん手慣れてるね~」

「一応自炊してるんで」

「聞いてるよ。誠が『梓の飯は旨い』って言ってるから」


──── そうだったんだ。なんか嬉しいな……そういうの。


「誰でも作れるようなものばっかですけどね」

「いいんじゃない?そういうのがさ。ちょっと上、失礼するね」

「あ、はい」


不破さんが私の後ろから上の棚に手を伸ばした。

私の背中にトンッ……と触れる不破さんの体。


「あれ、ここだったはずなんだけどなぁ」


桐生さんは違う香水の匂いに、少しだけドキッとしてしまう。

ていうか、不破さんも距離感おかしいって。

私はさりげなく横へ移動して、不破さんとの接触を避けた。


「……あ、ごめんね?梓ちゃん。これってセクハラになっちゃうかな?ははっ」

「え、あ、いっ、いえ」


不破さんを意識しちゃってるみたいで、それが無性に恥ずかしい。


「……顔、赤いよ?」

「これは、その……違くて」

「ははっ。こりゃ誠が心配するのも無理ないね」

「へ?」

「いやぁ……それにしても、よく我慢できるなぁ……誠は」

「……え、あ……あの……」


さっきまでの不破さんとは雰囲気が違って、上手く表現できないけど……ギラギラしてるっていうか、獲物を狙ってる瞳……みたいな。