降りしきる雨の中、桐生さんは傘をささない。

「どうした」

「……っ!?」


立ち止まる私に、後ろから覗き込むように見てきた桐生さん。

ちっ、近い、とにかく近い!!

桐生さんって距離感おかしくない!?


「き、桐生さん……」

「ん?」


──── なんでこんな至近距離で私を見つめてくるんですか。やめて、心臓に悪いから。


・・・・誰にでもこんな距離感なのかな……。

そう思ったら胸がモヤモヤしてきた。


「距離感バグってるって言われませんか」


ムスッとした声で、可愛くない言い方しちゃったな……最悪。


「あ?別に」

「……そうですか」


“なに言ってんだ?”みたいな雰囲気の桐生さん。

この人、無自覚で女の人を何人も、何十人も落としてきたんだろうなって思った。


「怒ってんのか」

「いえ」

「怒ってんだろ」

「違います」


きっとこれが、“子供っぽい”……そう思われているんだろうな。


「腹減ったか」

「……はい?」

「たくさん食え」


私の頭をポンポンッと撫でて、リビングへ行ってしまった桐生さん。


──── お腹が空いて機嫌が悪いって勘違いされてるんですけど。


自分の中でモヤモヤに折り合いをつけて、リビングへ向かった。