降りしきる雨の中、桐生さんは傘をささない。

頭に血が上って、引き返そうとする私の腕をガシッと掴んだ桐生さん。


「落ち着け」

「無理です!!」

「落ち着け」

「だって……」


子供をあやすように私の頭を撫でて、優しい目をして私を見下ろしている。


──── そんな瞳で見つめるのは、反則じゃないですか?桐生さん。


・・・・結局、宥められて落ち着く私。


「行くぞ」

「……はい」

「僕の前でイチャつくの、やめてくれないかなぁ?見てるこっちが恥ずかしくなるだろ?」

「「イチャついてない/です!!」」


声を揃えて否定した私達を見て、ニヤニヤしている不破さん。


───── そして、そんなこんなで着いてしまった……桐生さん宅に。


男の人の家に行くの初めてだなぁ……緊張する。

しかも、あの桐生さん家だよ?

── ガチャッと玄関のドアが開いて、何食わぬ顔でそそくさ入っていった不破さん。


「梓」

「はっ、はい!!お邪魔します」


私が玄関の中へ入ると、その後に桐生さんも入ってきて、カチャンッ……とドアが閉まる。


──── 造りは一緒なはずなのに、全然違く見える。


というか……めちゃくちゃいい匂いがする。桐生さんの匂いっていうか、大人な匂い……というか。

全身が桐生さんに包み込まれているみたいで、なんか凄く……ドキドキする。