降りしきる雨の中、桐生さんは傘をささない。

そもそもヤクザ=悪い人ってわけでもないだろうし……。


「だったらどうする」


淡々とした口調で、少しだけ無愛想な声……というか、素っ気ない感じ。そして、変わらず何を考えているのか分からない表情。


『だったらどうする』……か。


否定も肯定もしないような返答だけど、おそらくヤクザで間違えないでしょ。

だって、『若!!』とか呼ばれてたし。

正直に言うと関わりたくはないけど……悪い人ではなさそうだし、会ったら挨拶くらいはしたい……かな。

そんなことを考えていたら、ガチャッとドアが閉まる音が聞こえて、いつの間にか、そこに居たはずのぶっきらぼうさんは居なくなっていた。



──── 私が大嫌いな梅雨の時期に出会ったのは、“降りしきる雨の中、傘をささない”ぶっきらぼうなヤクザでした。



「…………うん。なかったことにしよ」