誘われるまま、彼の背中を追いかけて辿り着いたのは、昨日と同じ部屋だった。
でも、朝家を出た時とは少し違って――愕然とした。
(あぁ……また、やってしまった)
私の為を思って、貴重な時間を費やしてくれたはずなのに。
私の反応を見た優冬くんの顔がみるみる曇って、やっと気づく。
――私、いつまで泣いてるつもりなの?
「……気に入らなかった? ごめ……って、何してんの!? 」
自分の両手のひらで、自分の頬を打つ。
バチンという音がして結構な間を置いてから、慌てて優冬くんの両手が私の手首をやんわりと、でもしっかりと掴む。
「気に入らないわけないよ。だって……私が好きなものばかりだもん」
カーテン、シーツ、枕カバー。窓辺にはお花まで。
白と淡いピンクがところどころ混じる色合いは、私の好みをどこかからそっくりそのまま持ってきたみたいだ。
もしかしたら、普段の私の雰囲気からは予想もつかないかもしれない好み。
そう、ずっと見ててくれて、それもすごく愛情がある人じゃないと気づけないような。
それを、私はずっと――……。
「優冬くんだったんだね」
――ずっと、彼氏からだと思い込んでいた。
「……あ……」
しまったと顔を歪ませて、目を逸らした後。
「……うん。ごめん。馬鹿だ……ってか俺、浮かれすぎてて、何も見えてない。こんなこと、教えるつもりなかったのも、嘘吐き通せなかったのも本当にごめん」
「私こそ。優冬くんは悪くないのに、謝らせてばかりでごめんね」
ここに来て何度、罪もないことで謝らせてしまったのか分からない。
「ありがとう。これも……今まで貰ったのも全部。お礼、遅くなりすぎちゃったね」
あれも。
『お疲れ。このところ、頑張ってたもんな』
これも。
『……何かあった? なんでって……さっき電話で元気なかっただろ。分かるよ、幼馴染みが彼氏になったんだから。これで、少しは気が休まればいいけど』
それも。
『誕生日おめでと。俺の方がニヤニヤしてるって。そりゃ、そうだろ。やーっと単なる幼馴染みじゃなくて、普通に男として渡せるの嬉しいんだから』
それに、もしかしたら。
『お、サイズぴったり。高そう? ん、高いですよ。お前用なんだもん、当たり前だろ』
――未だに捨てられないことが恥ずかしい、「あれ」すらも。
「……ありがと……」
「……ん……」
躊躇いがちに、僅かに肩が優冬くんの方へと寄せられる。
掴まれたのでも包まれたのでもなく、ほんの指先が触れたくらいだったのに。
限界だった。
もう何度そう思って、あと何回更新してしまうんだろう。
そう思うと崩れ落ちてしまいそうで、額が優冬くんの胸に落ち、沈む。
「たぶん、今日はぐっすり眠れるから」
大嘘だ。
でも、今の時点でのこと。
「前々から思ってたけど、嘘吐くの下手すぎない? 」
「他の人の前では、結構上手だけど。私も大人だもん」
深夜、眠る頃には、きっと。
「……そっか」
――昔の思い出じゃなくて、この部屋で優冬くんの優しさだけ触れられるようになる。



