図書室ピエロの噂

 お父さんは、顔を下に向けしょう油皿を見た。

「今年でもう十二年か。瑛が生まれた年だものなぁ」
「お父さん何か知ってるの?」
「うん? ああ、昔の話だけどな……そう、丁度十二年前に、今瑛が通ってるきさらぎ学園小学校で失そう事件があったんだ」

 きさらぎ学園は、市立の一貫校だ。幼稚園から大学院までがあり、この土地を学園としたら占めている。ただその中には他の市立校などもあり、たとえば亮が通うきさらぎ市立山都未来高校は県立だ。

「図書室の鏡からピエロが出てきて、児童を引きずり込むという噂で、当時は持ちきりだったよ。今も、行方不明のままみたいだな」

 お父さんの声に、亮にいちゃんが不思議そうな顔をした。

「俺の学校の図書室にも鏡はあるけど、そんな話があるんなら、取り去った方がよくないか?」
「それがな、本当に鏡の中に連れ去られたとするのならば、鏡がなかったら帰ってこられないかもしれないという話になって、それで撤去されなかったんだと聞いてる。新たな被害者が出るのも怖いが、だからといっていなくなった子を見捨てるのもな」

 お父さんが答えると、納得したように亮にいちゃんがうなずいた。

「一応寺生まれのTさんが封印してくれたという噂だけどな」

 続けたお父さんの声に、ぼくは首をかたむけた。

「Tさん?」
「ほら、十焔寺の」
「泰我先生?」
「ああ、それは次男な。まぁあそこの寺の人だ。って――どうせただの都市伝説だぞ? 瑛。オカルトばっかり信じていると、頭が悪くなっちゃうからな?」

 お父さんの声に餃子を食べながら、ぼくは笑った。
 このようにして餃子パーティーの時は流れていった。