図書室ピエロの噂


「――だから、マスク男はいたけど、人間だったよ」

 月曜日。
 ぼくが説明をすると、西くんが唇をとがらせた。

「それは、〝ニセモノ〟だ!」
「えっ、で、でも、泰我先生だって人間だって……」
「きっと〝ブガイシャ〟がいたから、本物が出てこなかったんだ!」

 西くんが力説すると男子達が皆大きく頷いた。ぼくはあきれてしまった。
 その時、教室の後ろの扉が開いた。顔を向けると、黒いまっすぐな髪を長く垂らしたクラスメイトの哀名詩織(あいなしおり)が入ってきたところだった。無表情のまま哀名はまっすぐに机に向かう。人形のように綺麗な顔をしている。でも哀名はクラスで浮いている(・・・・・)。哀名を見た瞬間、西くんでさえも黙った。

 哀名は鞄を机の脇にかけると、黒い布袋を取り出した。
 そしてトランプのようなカードを机の上にのせる。
 なんでもルノルマンカードというそうだ。占いができカードらしい。転校生だった哀名が当初それを机にのせたときには、クラスは彼女の机を取り囲んだ。けれど哀名が、『飛砂(ひさ)先生が怪我をする』と占った。その日の放課後に、昨年までの担任の飛砂先生が階段から落ちて骨折した。それから哀名は恐れられている。今では退院した飛砂先生は、このクラスの副担任をしているけど、先生まで怯えているのがぼくの目から見てもわかる。

 ただぼくは、みんなと同じように哀名を遠巻きにしているけど、実はそんな自分をおくびょうだと思っている。昨年の五年生の時に、たまたま隣の席になって消しゴムを借りてから、実ばぼくは哀名が好きだ。初恋だ。だけどクラスのみんなは避けているし、巻き込まれたくない。自分には、彼女を勇者のように守る力はない。

 その後授業が始まり、月曜日も一日が流れていった。