図書室ピエロの噂



 ぼくは道家くんと一緒に帰ることにした。なんと、外を歩くことができるというのである。

「ねぇ、どうして外を歩けるようになったの?」
「それは、ボクを瑛が、引っ張り出してくれたからだよ。その場所が、学校じゃなかったから、外も歩けるようになったんだ。考えてみると、ボクが学校を歩けるようになったのも、学校に引っ張り出してくれたやつがいたからなんだ。そのときは、学校限定で遊ぼうって言われたから学校だけだったんだけど、瑛は〝外〟っていってたから、全部大丈夫になったみたいだよ」
「ふぅん。じゃあ前にも、道家くんを引っ張ってくれた子がいたんだ?」
「――泰我だよ」
「へ?」
「あんなに成長してるなんて、人間の世界の時間って不思議だね」
「そういうもの?」

 不思議に思いつつ、ぼく達は歩く。道家くんは、今は住む家も見つけて、普段は人間のように暮らしているらしい。泰我先生が手伝ってくれたそうだ。

「そういうものだよ」
「道家くんは、もう鏡の中に誰かを引きずり込んだりしないよね?」
「うん。反省した。ボクは、引きずり込むんじゃなくて、前に踏み出すべきだったんだって、瑛に教えてもらってやっとわかったよ」

 道家くんは、嬉しそうだ。

「でも――ボクが引きずり込まなくても、このきさらぎ市には、たくさんの都市伝説の怪異がひそんでいるからね」
「う、うん……」
「ボクじゃないほかの誰かが、どこかに引きずり込むことはあるかもね」

 それを聞いて、ぼくは大切な人達が、いなくなってしまうことを考えて、少しの間考えた。果たしてぼくは、それを見過ごしていいのだろうか? いいや、いいはずがない。

「ねぇ、道家くん」
「ん?」
「ぼくたち友達だよね?」
「な、なに、急に。ボ、ボクはそのつもりだけど……? 違うの?」
「一緒に都市伝説を調べて、危ないものは倒すの、手伝ってくれない?」
「えっ」
「道家くんがいたら、〝ひゃくにんりき〟だよ!」

 ぼくはいい考えだと思った。するときょとんとした道家くんが、それから吹き出した。

「都市伝説のボクが、都市伝説を倒すの?」
「うん。一緒に、困ってる人を助けてあげようよ」
「おもしろそうじゃん」

 よかった。道家くん――こと、図書室ピエロはのり気だ。
 ちなみに名前は、 道化師(どうけし)に当て字をして、道家紫としたそうだ。

「やろう!」

 ぼくがそう言って手を差し出すと、パシンと道家くんがぼくの手を叩いた。
 そして顔を見合わせ、ぼく達は笑った。

「そうだ、哀名も誘おう」
「瑛のカノジョ?」
「ま、まだ違うよ!」
「まだ、ねぇ……」
「こ、言葉のあやだよ!」

 ぼくは焦りつつも、足を動かす。
 遠くには、きさらぎ市の駅前のビルが見える。今日もこの街のどこかでは、都市伝説が噂されているのだろうけど、図書室ピエロの噂は、多分もう囁かれない。だってぼくの友達は、今となりを歩いているのだから。



 ―― 終 ――