「寂しい? 図書室ピエロは、寂しいから、鏡に引きずり込んでたの?」
「そうだよ! それの何が悪い! ボクと一緒にここにいて、一緒に遊んでよ!」
ぼくは胸が締め付けられそうになった。
気持ちが分かる気がしたからだ。このように暗い場所に一人でいたら、誰だって寂しい。
「――ねぇ、小学校の人体模型、覚えてる?」
「は?」
「きみと競争をしたってはなしてたけど」
「ああ。ボクの少ない友達だよ」
「そうなんだ」
ぼくはもう知っている。都市伝説のお化けは、怖い存在だけじゃない。いいものもいるし、よくしてくれるものもいる。
「ぼくもきみの友達になる」
「だったらずっとここにいろよ!」
「いいや、違う――一緒に外に行こう! 学校に戻ろう! 学校の中なら歩けるんでしょう?」
ぼくの言葉に、ピエロがおどろいたようにビクリとした。
「ぼくのクラスには人体模型や学校わらしだっているんだ。図書室ピエロが増えたって誰も何も言わない! 一緒にみんなと遊ぼうよ!」
そう言って、ぼくは護符をポケットにしまい、図書室ピエロに向かって手を差し出した。
「一緒に行こう。帰ろう? 学校に。そして、一緒に遊ぼうよ!」
すると迷うように手袋をした指を震わせてから、ピエロがポツリと言った。
「本当に、ボクも遊べるかな?」
「うん。ぼくと、一緒に遊ぼう。ぼくがついてる。絶対に、一人にしない。約束する」
今、ここにある絶望を、解消して、ピエロを救えるのは、きっとぼくしかいない。
今、図書室ピエロを救わなければ、きっとまた、同じ悲劇が起きる。
ぼくはそれを、見過ごせない。それは大人だからでも、子供だからでもない。ぼくだから、ぼくがそう思うからだ。ぼくは、自分が正しいと思うことに正直に生きる。
「早く!」
ぼくは再び手を差し伸べる。
きっと、ぼくに大人の在り方や、優しさというもの、弱さというものを教えてくれた人達だって、同じ判断をするだろう。
おずおずとピエロが手を差し出した。僕はその手を強引に掴んで引きよせる。
「行こう!」
ぼくは図書室ピエロの手を掴んで、鏡に振り返り、地を蹴った。そしてぐるぐると歪んでいる鏡の前に向かい、改めてピエロに振り返る。そしてその腕を両手で引っ張り、後ろから鏡に突っ込んだ。
「っ」
するとぼくの体を冷たい膜のようなものが通過し、次に気づくと外の風景があって、僕の手は確かにピエロの腕を握っていた。
「ありがとう」
「早く!」
「もう大丈夫。学校に戻るよ」
「っ」
「キミは先に帰っていて、外の世界に」
図書室ピエロはそう言うと、僕の手を振り払った。その衝撃で、ぼくはトイレの床にしりもちをつく。
「瑛にいちゃん!」
薺が抱きついてくる。振り返ると、歩夢くんも無事にそこにいた。

