――気がつくと、すすり泣く声が聞こえてきた。
ぴちゃり、またぴちゃりと、水がしたたる音もする。うっすらと目を開けたぼくは、暗い場所にいることに気がついた。そうだ、ぼくは図書室ピエロに引きずり込まれて――……薺は? そう思い出して、あわてて目を大きく開く。すると薺は、ぼくと手を繋いだままで、眠っていた。
「……」
その姿にほっとして、ぼくは大きく息をはく。そこは四角い部屋で、左側に細い通路が見える。部屋を見渡すと、ぼく達の正面に、泣いている子がいた。ボロボロと涙をこぼし、声を上げて泣いている。
「大丈夫?」
ぼくが声を上げると、その子がハッとしたようにこちらを見た。
その顔を見て、ぼくは水間さんにどことなく似ていると思った。
「もしかして……歩夢くん……?」
「ぼくのこと、知ってるの?」
「うん。歩夢くんのお兄さんのことを知ってるんだ。水間さん」
「廣埜お兄ちゃんのこと、知ってるの?」
「そうだよ。ぼくの――お友達だよ。新しくできた、友達」
「そうだったんだ……お兄ちゃんは、無事? ぼく、それだけが心配で……」
歩夢くんは、薺とおなじくらいの歳に見える。
「――無事だよ。すごく歩夢くんのことを、心配してるよ」
「そっか……ぼく、鏡の中だもんね。帰れないんだもんね」
すると再び歩夢くんが泣き始めた。
「変える方法はないの?」
「その通路の突き当たりに鏡があるけど、出ようとするとピエロが急に出てきて追いかけて、引きずり戻すんだ」
「三人でなら、逃げられるかもしれない」
ぼくが励ますように言うと、歩夢くんが目を丸くした。そしてうでで涙を拭く。
「できるかな?」
「やってみなきゃわからないよ」
ぼくの言葉に、歩夢くんが頷いた。ぼくはそれを見てから、薺の体をゆさぶる。
「薺、薺! 起きろ!」
「ん、っ……ここ、どこ?」
「鏡の中だ」
ぼくは言うと、ハッとしたように薺が目を開けた。そして周囲を見渡すと、ぼくに抱きついて泣き始めた。
「ナナちゃんは、友達ができるって言ってたのに! 鏡の中にお化けに引きずり込まれるなんて知らなかった!」
「薺、ナナちゃんっていうのは?」
「手鏡の中の女の子だよ」
「っ」
まさかと思っていたが、それは間違いなく、手鏡の中のナナちゃんだろう。薺の手元に手鏡があっただなんて。気づかなかった自分が怖い。
「今から、歩夢くんと三人で、ここから逃げるよ」
「う、うん!」
こうしてぼく達は、立ち上がった。

