怖い声だった。ぼくが人生で聞いた中で、一番低く怖い声だった。体が震えそうになったし、ぶわりとぼくの体に汗が出た。だけど、ぼくしか、亮にいちゃんは守れない。いつも守ってもらってばっかりじゃダメだ。ここは、お化け屋敷じゃないのだから。
「亮にいちゃんの話も聞かないで、気持ちも考えられない――人の気持ちを考えられない人の方が子供だ! 崎保さんの方が子供です!」
するとおどろいたように崎保さんがぼくを見上げた。半分口が開いている。
言いきったぼくは、ダラダラと汗をかいたまま、静まりかえってしまったその場で、おろおろしながら立っていた。
「ありがとう、瑛」
そのとき、亮にいちゃんが立ち上がった。そして俺の手を握った。
「俺の家族は楠谷家のみんなです。瑛は大切な弟だし、薺もそうだし――俺の父さんは晶さんです。だから、ここには戻らない」
断言した亮にいちゃんが、俺を見た。優しい顔で、泣きそうになって、笑っていた。
「――そうか。亮は、いい家族に恵まれたのだな」
やっと自分を取り戻したように、小さな声で崎保さんが言った。
その言葉に、ぼくと亮にいちゃんが顔を向けたとき、今度は透くんが笑った。
「あーあ。俺は弟を瑛に盗られちゃった。俺の方がみじめだな」
前にぼくは、透くんにみじめだと言われたことがある。
「ぼくは透くんをみじめだって思わないよ。だって、いっつも透くんは、亮にいちゃんのことばっかり、心配そうにぼくに聞いてた」
「……別に、心配なんかしてないよ」
「嘘だよ。してたよ」
「……お人好しだね、瑛は」
「ぼく、友達の気持ちは分かる方なんだ」
「ふぅん。そっか」
「また会おう、神社で」
「もう用事は無くなったけど――考えておくよ」
そんなやりとりをしてから、ぼくと亮にいちゃんは、縁側からおりて、庭を横切り門へと向かった。途中で亮にいちゃんが、桜を見上げた。
「俺、ババサレの対処法を知ってただろ?」
「うん」
「あれ、透が教えてくれたんだよ。怖がって俺が泣いたら、焦って。昔、何度か透と遊んだんだ。その時に」
「そうだったんだ。ぼくにババサレの話をしたとき、もしかしたら亮にいちゃんなら解決方法を知ってるかもしれないって言ってたのは、そういうことだったんだ」
「……あいつが瑛にババサレの話、したのか? まったく。でも、あいつも昔のこと、覚えてたのか」
懐かしそうに語る亮にいちゃんの手を、ぼくはギュッと握った。
「帰ろう、ぼく達の家に」

