図書室ピエロの噂


「だけどね、この前亡くなったおじいちゃんの〝遺言状〟が公開されてね。そうしたら、俺と同じくらい亮にも相続させると書いてあってね。上総さんは、認知は求めたけど、手切れ金と、二度と崎保の家に関わらないと約束していたから、母からしたら〝寝耳に水〟だったみたいでね。しかも、俺が長男なんだけどさ、うちは一族経営だから、祖父の次は父、父の次は俺が継ぐはずが、遺言には一部を亮に継がせると書いてあったんだ。もう俺の家は大荒れだよ。バカみたいだから、俺は神社に逃げてたんだよね」

 つらつらと語る透くんは、呆れたように笑っている。

「……亮にいちゃんはどうなるの?」
「さぁ? 今、それを話し合ってるみたいだよ。行ってみようか」
「ぼくが行ってもいいの?」
「いいんじゃない? 子の家に住んでる俺が、友達を連れて行って悪いことはないでしょ。俺を友達だといったのは、瑛だよね?」
「う、うん」

 こうして透くんが歩き出したので、ぼくもその後ろを突いていった。
 池には錦鯉が泳いでいた。

「お父様」

 縁側で、透くんが声をかけた。すると男の人がこちらを見た。崎保のお父さんだ。そして亮にいちゃんも何気なく振り返り、ぼくと目が合うと血相を変えた。

「瑛! どうしてここに」
「透くんの家に遊びに来たんだけど……?」

 ぼくはそれでいいのだろうと思って、透くんを見る。すると、透くんはニヤニヤと笑っていた。

「どうして瑛と一緒に!? 何かしたのか?」
「別に?」
「いつから瑛と……」
「学校帰りに、偶然出会って、お話をするお友達になっただけだよ」
「そんなはずが――」
「いやぁ、亮の家族ごっこのお話を聞かせてもらうのが楽しくてねぇ」
「っ」

 意地悪な声で笑いながら透くんがいうと、唇を噛みしめるようにして、亮にいちゃんが俯いた。

「入りなさい」

 そのとき、崎保さんが言った。
 するとひょいと透くんが中に入り、ぼくを手招きした。ぼくも靴を脱いで、中に入る。

「楠谷くんのご子息か?」
「――ええ。俺の弟の瑛です」
「弟? それは違う。亮、お前は崎保の人間だ」
「ですから、お断りしています。俺は、崎保の家には入りません」
「では、これからも血のつながらない楠谷くんに養ってもらうのか?」
「……それ、は……自分で働いて……」
「そんなことが出来ると思っているのか? 無学の者をどこが雇ってくれると言うんだ?」
「……晶さんには、働いて返します」

 亮にいちゃんが、お父さんのことを名前で呼んだ。ぼくは思わず、じっと横顔を見てしまう。

「迷惑をこれ以上かけるな。遺言状もある。戻れ」
「っ」
「亮、何度も言わせるな」

 亮にいちゃんが、辛そうな顔でうつむいている。言葉を探しているみたいだ。
 ぼくは、崎保さんを見る。そして思わず立ち上がった。

「亮にいちゃんは、ぼくのお兄ちゃんです! この家の人じゃないです! それにお父さんも迷惑だなんて思ってません! 思ってるわけないです!」

 前に、高校を止めず、やりたいことをしたらいいと話していた。
 迷惑じゃないと話していた。
 ぼくはそれを聞いたことを覚えている。

「場をわきまえて、黙っていろ。子供の分際で」