図書室ピエロの噂


 透くんのお家は、大きなへいに囲まれていた。門があって、そこを入ると、大きな庭と池があった。だけど一番目をひいたのは、夏なのに、春みたいに桜が咲いていたことだ。大きな桜の木が一本あって、そこからひらひらとうすいピンクのお花がまいおちてくる。

「どうして桜が咲いてるの?」
「ああ、これはね。俺達のご先祖様が、旅の八人みさきを殺して、桜の下に埋めたせいらしいよ。その血を吸っているから、桜がずっと咲いているんだってさ。桜の下には、死体が埋まっているんだよ。ご先祖様は、旅人達から奪った小判で商売を始めて――今じゃ、我が家は資産家だ」

 どこか自分で自分を馬鹿にするような顔をして、透くんがいった。怖い昔話だなと思いながら、ぼくは桜を見上げる。

「どうしてここに来ると、亮にいちゃんとのことを話してくれるの?」
「あちらを見てごらん」

 透くんが指さしたので、そちらを見ると、縁側のふすまが開いていて、たたみの部屋に、和服の男の人と、向き合っている亮にいちゃんが見えた。

「あれは、誰?」
「俺と亮の父親」
「え?」
「父親だよ。俺達、兄弟なんだ。 異母兄弟(いぼきょうだい)
「……? どういう……?」

 ぼくは意味が分からなかった。

「瑛と薺くんのお父さん、楠谷 (あきら)さんは、奥さんと死別して、きみ達二人を連れて再婚したんだよ。きみが亡くなったお母さんだと思ってる、 遠藤上総(えんどうかずさ)さんと。上総さんは、亮を連れて再婚した。高校生の亮と、小学生の二人の年が離れているのも、それが理由。つまり亮と瑛は本当の兄弟じゃないんだよ。亮と血が繋がってるのは、この俺なんだよ」

 びっくりして、ぼくは上手くじたいを飲み込めない。

「俺の母親が、あそこに座ってる父親―― 崎保秋好(さきほあきよし)の戸籍上の妻だ。本妻だよ。つまり、上総さんと、俺と亮の父親は 不倫(ふりん)してたってわけ。それで亮が生まれて、俺の母親は怒りくるってねぇ。俺に八つ当たりすることもあったし、俺達の祖父は亮のことも可愛がってたから、たまに亮がここに顔を出すと、亮にも当たっていたよ。酷いだろ? 今も、昨日の件で〝いかりしんとう〟の様子で、部屋にこもってる」

 ぼくはおろおろとしてしまう。

「〝ふりん〟ってなに?」
「奥さんがいるのに、別の女の人と付き合うことだよ、この場合」
「……そ、そんなの。そんなのだめだよ。お母さんがそういうことをしたの?」
「きみの実の母親ではないんだけどね。まぁそういう、〝不義の子〟なんだよ、亮は」
「……」
「瑛のお兄ちゃんじゃない。ぼくの弟なんだ」

 桜の花びらが落ちてくる中で笑う透くんは、ぼくをじっと見ていた。