帰宅した翌日から、お父さんは夏休みをとったかねあいで、連日お仕事になり、夜勤と準夜勤が増えた。家にいない日が多い。でも、亮にいちゃんと二人だから、寂しくない。
今日は、薺のお見舞いに来た。おみやげを渡すためだ。
「――そうなんだ。ナナちゃんは、なんでも知ってるんだね」
すると鏡を見て、薺がなにか呟いていた。なんだろうと視線を向けてから、ぼくはコンコンと病室のドアをノックする。ここは四人部屋だけど、今は薺しかいない。
「あ! 亮にいちゃん、瑛にいちゃん!」
手鏡をおいた薺が、嬉しそうに顔を上げた。頬があかい。
「おみやげ買ってきたよ」
ぼくが遊園地で買ったおかしと、動物園で買ったぬいぐるみを見る。持っているのは亮にいちゃんだ。すると薺が嬉しそうな顔をしてうなずいた。
「早く元気になって、ぼくも行きたいなぁ」
「ああ、きっとよくなる」
小さく笑って亮にいちゃんが言った。ぼくも薺が元気になるといいなと思う。
なんだか図書室で本を読んだ後から、ぼくは自分自身を振り返って、もう薺がいないのがいいなんて思いたくないと感じている。ぼくは、亮にいちゃんがぼくにとって自慢のお兄ちゃんであるように、薺にとって自慢となるようなお兄ちゃんでいたい。
「あ、見てこれ」
ぼくがうで時計を見せると、薺が目を丸くして、こうふんした様子になった。
「すごい! カッコイイ!」
「だろ?」
嬉しくなって、ぼくは何度も頷いた。
「薺は、病院はどうだ?」
亮にいちゃんが聞いた。これはいつも聞くことだ。
「うん。最近新しいお友達ができたんだよ。ナナちゃんっていうんだ」
同じ名前を聞いたことがあるけど、珍しい名前ではないし、この小児科の患者の子かなとぼくは思った。まさか薺のそばに、手鏡の中のナナちゃんがいるとは思えない。
その日はそれから雑談し、ぼくと亮にいちゃんは病院から帰った。

