「あ、時計だ」
そこにあったデジタル時計を見て、ぼくは目がくぎづけになった。時間はスマホで分かるけど、お父さんもしている時計が、ぼくの憧れだ。
「買おうか」
「いいの?」
「ああ。記念だからな」
お父さんがぼくにうで時計を買ってくれた。お店の人に箱から出してもらい、ぼくはその場で左腕に身につけた。カッコイイ。
「亮にいちゃんに見せてくる!」
「ああ、迷子になるなよ」
ぼくはうなずき、おみやげもの屋さんから外に出た。トイレはすぐそばだ。そう思って顔を向けると、亮にいちゃんが立っていた。左の方向を見ている。歩きながら、ぼくもそちらを見た。そしてびっくりした。そこには透くんが立っていたからだ。
「なぜここにいるんですか?」
亮にいちゃんが、いつもとは違う……哀名みたいな、なんの感情も見えない声で透くんに言った。透くんはいつもの通りで、楽しそうに笑っている。ただ、目が笑っていないようにも見えた。
「楽しい旅行に行くらしいと聞いたからさ。楽しい? 家族ごっこ」
「……」
亮にいちゃんの顔色がどんどん悪くなっていく。今までにないくらい、ぼくが見たことがないほど、冷たい顔をしている。
ぼくが困惑して思わず立ち止まっていると、ふいに透くんがぼくを見た。
そしてニヤっと笑った。
「じゃあね、亮。楽しんで」
そう言って、透くんは歩いて行った。ずっと亮にいちゃんはそちらを見ている。
知り合いなのだろうか? そういえば、前にも崎保という名前の話が出ていたっけ。
透くんがいなくなったら、ぼくの緊張がほどけたようになったので、歩みを再開した。
亮にいちゃんの向こうには、風船を配っているピエロが見える。
図書室ピエロも、ああいう感じなのだろうか? 赤い鼻で、頬にペイントがあって。
「亮にいちゃん!」
ぼくが声をかけると、ハッとしたように、亮にいちゃんがぼくを見た。
「みてみて! 時計を買ってもらったんだよ!」
「お! かっこいいな」
「でしょ?」
亮にいちゃんはいつも通りの顔に戻っていた。それにほっとしながら、僕達は二人で、お父さんのところへと戻った。
次の日の動物園も楽しくて、ぼくはその写真も哀名に送った。
じゅうじつした、夏休みのすべりだしに、ぼくは大満足した。

