図書室ピエロの噂

 ドキドキしながら、ぼくは生徒玄関ではなく職員玄関へと向かった。
 そして音を立てないように注意しながら中に入る。
 職員室のほうを見ると、灯りがもれていた。先生達に気づかれる前にと、急いで二階にあがる。理科室は二階にある。人体模型は、ぼくは見たことがないけど、水間さんが理科室と口にしていたのをおぼえている。そちらに向かって歩いて行くと、階段をおりてくる足音が聞こえた。

 人体模型だろうか?

 かたずを飲んで見守ると、ひょいと哀名が顔を出した。おどろいてぼくは目を丸くする。

「やっぱり」
「哀名、どうしてここに?」
「カードが教えてくれたの。今日、楠谷くんが学校にしのび込むって」
「すごい……」

 哀名の占いは本当に当たる。
 だが、今日は当たってほしくなかった。だって哀名は邪魔になると話していた。

「私も行く。できることをしたいから」
「!」

 続いて聞こえた言葉に、ぼくはゆっくりと二回まばたきをしてから笑顔になった。
 哀名はやっぱり優しい。

「行こう」
「ええ。三階のほうで、走る足音が聞こえたの」
「ぼく達の教室のほう?」
「そうなの」
「わかった」

 こうしてぼく達は、暗い階段を、二人でしんちょうにのぼった。
 そして三階につくと、ちょうどぼく達の教室のとびらがガラガラと開いたところで、そこから勢いよく人かげが飛び出してきた。

 きょりがあるから顔は暗いし見えないけど、こちらへ向かって全力疾走してくる。
 きっと、人体模型だ。ぼくは思わず、となりにいた哀名の手を、ギュッと握った。
 ぼくが怖かったからじゃない。哀名を守ろうと思ったからだ。

「ふぅ。夜の学校は最高だなぁ! やっぱり廊下を走るのは気持ちいいね!」

 明るい声がした。聞きおぼえのある声だった。
 もしかしてクラスのだれかが残っていたのだろうかと考えたとき、ぼく達の正面で、走ってきた人が急ていしした。そのすがたを見て、ぼくはビックリした。

 顔の右半分が、模型になっている。右手と左手を走るかたちに折り曲げたままで、ぼく達を見て、人体模型が目玉がこぼれ落ちそうなくらいまぶたをあけた。

「く、楠谷くん……哀名さん……」

 名前を呼ばれ、ぼくは服をきていない人体模型を改めて見て、思わず言った。

「人潟くん……?」