「た、ただいま!」
ぼくがかけこむと、亮にいちゃんが、サラダをテーブルにのせたところだった。
「おかえり。どうしたんだ? そんなにあわてて」
「あのね、あのね……あの……」
そこで迷った。ぼくが話したら、亮にいちゃんのところにも、ババサレが来てしまうかもしれない。だが、ぼく達は一緒に暮らしているから、来る場所はこの家で同じだ。そう考え直して、ぼくは窓を指さした。
「ババサレが来ちゃうんだ。ぼくがババサレの話を聞いちゃったから、ババサレが来るんだよ!」
すると目を丸くしてから、亮にいちゃんが優しく笑った。
「ババサレって、カマを持ってるばぁさんの妖怪か?」
「妖怪かどうかはわかんないけど、カマを持ってるって聞いたよ!」
「それなら大丈夫だ。俺が対抗策を知ってるからな」
「え?」
「ババサレがノックしてきたら、『ババサレ・ババサレ・ババサレ』って三階唱えると、帰っていくんだ。二度と来ない」
「本当?」
「ああ。だからもし来たら、俺が追いはらってやるから、まずは食事にしよう。今夜は 麻婆豆腐だ」
「うん!」
「手を洗っておいで」
安心したぼくは、ランドセルをリビングのソファにおいて、手を洗いに向かった。
やっぱり亮にいちゃんは、頼りになる。
ぼくも亮にいちゃんみたいになりたい。
「今日も父さんは夜勤だって」
「分かった」
うなずいてから、ぼくはテーブルの前に座った。エプロンをほどいて、亮にいちゃんも目の前に座る。二人で手を合わせて、いただきますと言ってから、ご飯を食べ始めた。
「だけど、ババサレかぁ。俺が小さい頃からあるんだよ、その都市伝説」
「そうなの?」
「ああ」
「亮にいちゃんの頃も、小学校にも七不思議、あった?」
「あったあった。トイレの花子さんとかな」
その言葉に、ぼくはドキリとした。お水を飲んで、なんでもないフリをする。
――ダンダンダン。
音がしたのはそのときだった。ぼくが体をかたくすると、亮にいちゃんが箸を置いて立ち上がった。そして音が聞こえてきた玄関の方へいく。
「ババサレ・ババサレ・ババサレ」
亮にいちゃんの声が聞こえてくると、音がしなくなった。
すごい!
戻ってきた亮にいちゃんを見て、ぼくはそんけいしたから、笑顔で拍手した。
「――台風が近づいてるらしいから、気をつけないとな」
座りながら亮にいちゃんがそう言ったので、ぼくはくびをひねった。
「台風?」
「そ。今夜は風が強い」
「玄関に行ったら風の音がしたの?」
「どうだろうな。瑛、気をつけて学校に行くようにな」
「うん」
この夜食べた麻婆豆腐も、本当に美味しかった。
ただ怖かったから、夜は亮にいちゃんの部屋に行き、一緒に眠ってもらった。
ぼくは本当は、怖がりだ。だけどそんなのは〝大人〟らしくないから、台風が怖いことにしておいた。いつでも避なんできるようにだと、ぼくは伝えて、一緒にねむった。

