図書室ピエロの噂



 なんだか今も信じられない気分で、何度もポケットの上をさわりながら歩いていくと、神社の石段が見えた。

「瑛、おはよ」

 声をかけられたので顔をあげると、透くんが座っていた。
 今日も笑顔だ。透くんは金色に髪を染めていて、きつねみたいな顔をしている。ちょっとつり目だからそう感じるんだと思う。

「こんばんは!」
「今帰り? 今日はちょっと遅いんだね」
「うん。ちょっとね」
「ちょっと?」

 旧校舎は立ち入り禁止だから、秘密にしなければならないと思って、ぼくは顔をそむけた。するとひょいと石段から立ち上がった透くんが歩いてきたみたいで、ぼくの前に立った。

「おにいさんに話してみなさい」
「ん? ぼくのお兄ちゃんは亮にいちゃんだけだよ」
「兄弟仲がいいんだな。いや、そういう意味で言ったわけじゃないんだけどね。あれかな? もしかして……ついに瑛も、大人になったのかと思って」
「え?」
「デートでもしてたのかなってさ」
「ち、ちがうよ! ぼくと哀名は花子さんを調べに行っただけだもん!」
「花子さん? トイレの花子さん?」

 思わず口走ったぼくを見て、透くんがきょとんとした。しまったと思って、ぼくは両手で口をおおう。

「七不思議? まだ残ってるんだ」
「……」
「怖い話好きなの?」
「別にそういうわけじゃないけど、ちょっと都市伝説を調べてて……」
「へぇ? ああ、それじゃあ、【ババサレ】って知ってる?」
「ババサレ?」
「そ。ババサレ」

 ぼくは知らなかったので、大きく首を横に振った。すると楽しそうな顔をして、透くんが言った。

「ババサレは、カマを持ってるばぁさんの化け物なんだ。ババサレの話を聞いた人間の家に、夜必ずやってくる。それでドアや窓を叩くんだ。とりつくんだよ」
「えっ!? い、今、透くん、ぼくに話した!」
「そういうこと。これで今夜は、瑛の家にババサレが来る。間違いなくね」
「ど、どうすればいいの!?」
「さぁ? 忘れちゃったなぁ」

 クスクスと笑うと、透くんがポンポンとぼくの肩を叩いた。

「亮ならどうにかできるかもねえ? 知らないけど」
「亮にいちゃん?」
「聞いてみたら? じゃあね」

 そう言うと、ひらひらと手を振り、透くんは歩いていった。困ったぼくは、ポケットの魔除けが、ババサレにも効果があることをいのる。ギュッと目を閉じ、怖くなりながら、それから帰った。