図書室ピエロの噂

 放課後になって、ぼくはまぁまぁの〝しんてん〟だと考えながら、靴箱へと向かった。
 そして外履きを取り出した。

「ねぇ」

 すると声がした。平らな声で、山も谷もない。
 振り返ると、そこには哀名が立っていた。僕は二つの意味でドキリとした。
 一つは、好きな子に声をかけられて嬉しかったからだ。
 もう一つは、もしかしたら占いで何か悪い結果が出たのかと不安になったからだ。

「なに?」
「トンカラトンを探しているんでしょう?」
「どうして知ってるの?」
「お昼休みに話しているのが聞こえたの」

 哀名の今の席は、人潟くんの前の席だ。聞こえても不思議はない。なっとくして、ぼくはうなずいた。

「うん。そうだけど」
「さっき、カードで占ってみたの。そうしたら、来週の火曜日までは、きさらぎ駅の裏の通りを曲がったところ、今は閉まっているお店が多い、〝シャッター通り〟の歩道を走っているみたい」
「えっ!? 本当!?」
「ええ。カードは嘘をつかないから。間違ったとすれば、それは私が読み方を間違ったときだけ」
「……す、すごい。ねぇ、来週の火曜日ということは、次の日曜日までは、トンカラトンはそこにいる?」
「カードはそう言っているわ」
「ありがとう、哀名」

 これは、とてもよい情報だ。嬉しくなって、ぼくは笑顔を浮かべた。すると哀名が小さく首を振る。綺麗な長い黒髪が揺れた。

「楠谷くんは、どうしてトンカラトンの居場所を調べているの?」
「そ、それは、秘密なんだ」
「そう。それなら、帰ったら占うことにするわ」
「えっ……」

 それでは、今言ったとしても、言わなかったとしても、哀名にはわかってしまう。
 ならば秘密にしてもらえるようにお願いするには、今話したほうがいいだろう。
 ぼくは頭のうを回転させた。

「あ、あのね。だれにも言っちゃダメだよ?」
「ええ、約束する」
「実は……ぼくは、図書室ピエロを探していて、その情報を集めるために、図書室ピエロのことを知っていそうな都市伝説のお化けのウワサを集めてるんだ。水間さんっていう人のお手伝いをしてるんだ」
「図書室ピエロ?」
「うん。もしかして、図書室ピエロのことも占ったらわかる?」
「試してみる価値はあるとおもう。だけど、必ずわかるかは私には断言できない。それは、カード次第だから」
「カードもばんのうなわけじゃないんだね」
「ええ」
「早速占ってほしい! 水間さん、本当に困ってるんだ」
「この辺りだと……どこかテーブルがある場所……」

 哀名が学校の中に振り返る。だが学校で哀名と二人でいたらとても目立つ。
 ぼくと哀名がいるところを見られたら、ぼくまで浮いてしまうかもしれない。
 そこでぼくは、外を見た。

「そこの神社のところの、小さい公園のベンチは? テーブルとやねがある!」
「ええ、いいわ」

 こうしてぼく達は、一緒に靴を履いて、生徒玄関を出た。