つゆは、いつの間にかいなくなっていた。気がついたら、セミがなく季節だった。
夏休みは七月の終わりの方からだから、ぼくにはまだ学校がある。
小学校最後の夏休みだ。
ぼくはお父さんと亮にいちゃんと、二泊三日で旅行に行く。遊園地に連れて行ってもらう。子供っぽいと思ったけど、亮にいちゃんがとってものり気だったから、ぼくはつきあってあげることにした。ただぼくは、ジェットコースターはあんまり好きじゃない。亮にいちゃんがのりたいって言い出したら、どうしよう。
〝大人〟になると、悩みがつきない。大人になるというのは、大変だ。
そう考えながら通学路を歩いていると、神社の鳥居が見えてきた。そこへと続く石段には、たまに透くんが座っている。だけど、今日はいない。ぼくはそれよりも、赤い鳥居の下に、前に見たことがある緑の外套を着ている、マスクをして四角い黒縁眼鏡をかけた人を見つけた。たしか、水間さんだ。図書室のマスク男が出て来なかった理由だって西くんが言っていた人だ。どうしてここにいるんだろう? 今日は土曜日じゃないし、そもそもここは、図書室でもない。
不思議に思って、ぼくは石段を登ることにした。
そして距離がちぢまったところで、声をかける。
「水間さん」
ちょっとだけ勇気を出した。水間さんが、怖い顔をしていたからだ。マユとマユの間には、深くシワがきざんであった。おどろいたように、水間さんがぼくへと向きなおる。
「ああ、たしか泰我のクラスの楠谷くんだったな?」
「うん。楠谷瑛だよ。水間さんは、ここでなにをしているの?」
ちょっとした好奇心だった。ぼくはたくさんのことに興味を持つようにしている。
「別に」
「用事もないのに、誰もいない神社にいたの?」
「……」
「なにかあるんでしょう?」
「……ちょっとな」
水間さんは、浮かない顔をしている。それから少しの間、考えるようにまばたきをしてから、改めてぼくを見た。
「小学校で、『まっかっかさん』という都市伝説を聞いたことはあるか?」
「まっかっかさん? 初めて聞いた」
「そうか。まぁそれもそうだな。噂になるはずはないか。見たものは死ぬのだから」
「えっ」
〝ふおん〟な言葉に、ぼくはおどろいた。
「まっかっかさんに会うと、死んじゃうの?」
「いや、忘れてくれ」
「教えてよ。まっかっかさんって、どんなの? もし会ったら、逃げなくちゃ」
「会ってしまえば終わりなんだ。ごく一部、理由は不明だが助かった子はいる。だが、基本的には、五日以内に、なんらかの理由……交通事故であったり、心臓まひであったり、様々な理由で死亡する」
真剣な目をして、水間さんが言った。ぼくは怖くなって、うでで体を抱きしめるようにした。
「まっかっかさんの特ちょうは、前身真っ赤だということだ。赤い服を着ていて、赤い傘を差していて、赤い長靴を履いている。雨の日にのみ、この辺りに出現する」
ぼくはそれを聞いてハッとした。ぼくが梅雨の頃にあった子と、おなじように聞こえる。
「水間さん、ぼく、まっかっかさんに会った!」
夏休みは七月の終わりの方からだから、ぼくにはまだ学校がある。
小学校最後の夏休みだ。
ぼくはお父さんと亮にいちゃんと、二泊三日で旅行に行く。遊園地に連れて行ってもらう。子供っぽいと思ったけど、亮にいちゃんがとってものり気だったから、ぼくはつきあってあげることにした。ただぼくは、ジェットコースターはあんまり好きじゃない。亮にいちゃんがのりたいって言い出したら、どうしよう。
〝大人〟になると、悩みがつきない。大人になるというのは、大変だ。
そう考えながら通学路を歩いていると、神社の鳥居が見えてきた。そこへと続く石段には、たまに透くんが座っている。だけど、今日はいない。ぼくはそれよりも、赤い鳥居の下に、前に見たことがある緑の外套を着ている、マスクをして四角い黒縁眼鏡をかけた人を見つけた。たしか、水間さんだ。図書室のマスク男が出て来なかった理由だって西くんが言っていた人だ。どうしてここにいるんだろう? 今日は土曜日じゃないし、そもそもここは、図書室でもない。
不思議に思って、ぼくは石段を登ることにした。
そして距離がちぢまったところで、声をかける。
「水間さん」
ちょっとだけ勇気を出した。水間さんが、怖い顔をしていたからだ。マユとマユの間には、深くシワがきざんであった。おどろいたように、水間さんがぼくへと向きなおる。
「ああ、たしか泰我のクラスの楠谷くんだったな?」
「うん。楠谷瑛だよ。水間さんは、ここでなにをしているの?」
ちょっとした好奇心だった。ぼくはたくさんのことに興味を持つようにしている。
「別に」
「用事もないのに、誰もいない神社にいたの?」
「……」
「なにかあるんでしょう?」
「……ちょっとな」
水間さんは、浮かない顔をしている。それから少しの間、考えるようにまばたきをしてから、改めてぼくを見た。
「小学校で、『まっかっかさん』という都市伝説を聞いたことはあるか?」
「まっかっかさん? 初めて聞いた」
「そうか。まぁそれもそうだな。噂になるはずはないか。見たものは死ぬのだから」
「えっ」
〝ふおん〟な言葉に、ぼくはおどろいた。
「まっかっかさんに会うと、死んじゃうの?」
「いや、忘れてくれ」
「教えてよ。まっかっかさんって、どんなの? もし会ったら、逃げなくちゃ」
「会ってしまえば終わりなんだ。ごく一部、理由は不明だが助かった子はいる。だが、基本的には、五日以内に、なんらかの理由……交通事故であったり、心臓まひであったり、様々な理由で死亡する」
真剣な目をして、水間さんが言った。ぼくは怖くなって、うでで体を抱きしめるようにした。
「まっかっかさんの特ちょうは、前身真っ赤だということだ。赤い服を着ていて、赤い傘を差していて、赤い長靴を履いている。雨の日にのみ、この辺りに出現する」
ぼくはそれを聞いてハッとした。ぼくが梅雨の頃にあった子と、おなじように聞こえる。
「水間さん、ぼく、まっかっかさんに会った!」

