ぼくは青い大きなカサを差して、一人下校している。
今日は、お気に入りのTシャツを着ている。亮にいちゃんが、ピシッとするようにアイロンをかけてくれたTシャツは、真っ赤な色をしていて、中央に黒と白の〝陰陽マーク〟が描いてある。おたまじゃくしを重ねたみたいなかたちで、『おんみょうじ』みたいだ。
青い傘も、〝大人〟のカサだ。なんていっても、お父さんとおそろいだ。
六年生になったお祝いの買ってもらった。
今は、つゆの時期だから、カサを使うときは、いっぱいある。
「ん?」
ぼくは立ち止まる。ぼくが進む歩道の正面に、赤いカサをさしている子が立っていたからだ。赤い上着で、ズボンも長靴も真っ赤だ。カサが小さく角度を変えると、その子と目があった。青白い顔をしていて、大きな目がぼくをじっと見ている。人形みたいな表情をしていて、ぼくは〝ケゲン〟に思って首をカタの方に動かした。
「……」
「どうかした?」
ぼくが聞くと、その子はじっとぼくの胸の辺りを見た。
そしてふるふると首を振ると、ぼくの横をすり抜けて、何も言わずに歩いていった。
不思議な気分で、ぼくは振り返ってその子を見ていた。
男の子にも、女の子にも見える、ガリガリの子供だった。
「帰ろう」
僕はひとりごとを言って、家へと戻った。すると亮にいちゃんが、キッチンでお玉を持ち上げて、横にいるお父さんと話していた。ぼくは静かに家に入ったから、二人はぼくに気づいていないみたいだ。
「亮。きみは俺の子だ。だからなにも気にすることはないんだよ」
「でも……」
「崎保の家のことなど、もう気にすることはない」
お父さんの声は、言い聞かせるようなものだった。いつも明るい亮にいちゃんが、何も言えないようで、鍋の中をじっと見始めた。
……崎保?
それは、透くんの名字とおんなじだ。なにか、関係があるのだろうか。
キッチンに、気まずい空気が流れている気がしたから、ぼくは今帰ってきたふりをすることに決める。ぼくは〝大人〟だから、聞いていないふりをして、その場の空気を変えようと思った。
「ただいまー!」
するとビクリとしてから、そろって二人が振り返った。
そしてぼくを見ると、さっきまでの気まずい空気なんかなかったように、二人も笑顔になった。ぼくも両頬を持ち上げる。
「おかえり、瑛。今日はビーフシチューだぞ」
「やったぁ。亮にいちゃんのビーフシチュー、大好き」
「亮は本当に料理上手だと、父さんも思うよ。いい香りがするなぁ」
変わった空気に、ぼくは満足した。その頃には、すれ違った真っ赤な子のことなんて、すっかり忘れていた。
今日は、お気に入りのTシャツを着ている。亮にいちゃんが、ピシッとするようにアイロンをかけてくれたTシャツは、真っ赤な色をしていて、中央に黒と白の〝陰陽マーク〟が描いてある。おたまじゃくしを重ねたみたいなかたちで、『おんみょうじ』みたいだ。
青い傘も、〝大人〟のカサだ。なんていっても、お父さんとおそろいだ。
六年生になったお祝いの買ってもらった。
今は、つゆの時期だから、カサを使うときは、いっぱいある。
「ん?」
ぼくは立ち止まる。ぼくが進む歩道の正面に、赤いカサをさしている子が立っていたからだ。赤い上着で、ズボンも長靴も真っ赤だ。カサが小さく角度を変えると、その子と目があった。青白い顔をしていて、大きな目がぼくをじっと見ている。人形みたいな表情をしていて、ぼくは〝ケゲン〟に思って首をカタの方に動かした。
「……」
「どうかした?」
ぼくが聞くと、その子はじっとぼくの胸の辺りを見た。
そしてふるふると首を振ると、ぼくの横をすり抜けて、何も言わずに歩いていった。
不思議な気分で、ぼくは振り返ってその子を見ていた。
男の子にも、女の子にも見える、ガリガリの子供だった。
「帰ろう」
僕はひとりごとを言って、家へと戻った。すると亮にいちゃんが、キッチンでお玉を持ち上げて、横にいるお父さんと話していた。ぼくは静かに家に入ったから、二人はぼくに気づいていないみたいだ。
「亮。きみは俺の子だ。だからなにも気にすることはないんだよ」
「でも……」
「崎保の家のことなど、もう気にすることはない」
お父さんの声は、言い聞かせるようなものだった。いつも明るい亮にいちゃんが、何も言えないようで、鍋の中をじっと見始めた。
……崎保?
それは、透くんの名字とおんなじだ。なにか、関係があるのだろうか。
キッチンに、気まずい空気が流れている気がしたから、ぼくは今帰ってきたふりをすることに決める。ぼくは〝大人〟だから、聞いていないふりをして、その場の空気を変えようと思った。
「ただいまー!」
するとビクリとしてから、そろって二人が振り返った。
そしてぼくを見ると、さっきまでの気まずい空気なんかなかったように、二人も笑顔になった。ぼくも両頬を持ち上げる。
「おかえり、瑛。今日はビーフシチューだぞ」
「やったぁ。亮にいちゃんのビーフシチュー、大好き」
「亮は本当に料理上手だと、父さんも思うよ。いい香りがするなぁ」
変わった空気に、ぼくは満足した。その頃には、すれ違った真っ赤な子のことなんて、すっかり忘れていた。

