「大丈夫?」
 あの日、あんたは俺にそう声をかけてくれた。
 俺はいつも以上に毅然とした態度でいたはずなのに……あんただけは、俺の体調の悪さを見抜いてくれた。
「顔色が真っ青だよ。少し休んだ方が……」
「平気です。それに撮影も押してるから、休んでる暇なんて無いですし」
 今日は活動を始めてからの初めての雑誌撮影。
 これから人気配信者になっていく俺たちとしては、ミスをすることも迷惑をかけることも絶対にできない大舞台なんだ。
 だから俺は強がった。
 本当は、緊張やら寝不足やらで体が疲れているのに、気丈夫に振る舞っていた。
「……わかった」
 すると、あんたはそう言って俺に一本の水を差しだしてくれた。
 かなり冷えているから、飲んでも、首元に当てても、俺をイイ感じに癒してくれる。
 俺がお礼を言う前に、あんたは称賛するように笑ってくれた。
「プロなんだね。立派だよ」
「……どうも」
「でも体調管理もプロに必要なものだから、あんまり無理しないようにね。カメラマンにも少し弱めのライトを使うよう言っておくから」
 そう言って、あんたはカメラマンさんたちの方へ行ってしまった。
 その後の撮影は思った以上にスムーズに進んだ。
 しかもその時の撮影を皮切りに、雑誌が売れ、俺たちのグループの知名度も上がり、一気に有名配信者へと駆け抜けていった。
「………」
 それでも俺はあんたのことは忘れてない。
 あの時受けた優しい言葉が、今でも俺のプロとしての糧になっているから。