わたしの気持ちを露ほども知らない律は、自転車を端に寄せて亮の方へ行こうとする。
だけどその瞬間、見たくない人影がわたしの目に飛び込んだ。
……陽菜ちゃんだ。
そうだよね。
なつきが部活終わったってことは、同じ吹奏楽部の陽菜ちゃんも終わったってわけで。
最近付き合いが悪いって言ってたのは、こういうことだったんだ。
知りたくなかったな……。
いまにも飛び出して行きそうな律を、静かに呼び止めた。
「……敷島、陽菜ちゃんがいるよ。たぶん、亮を待ってる」
「え、まじ? 佐多、目よくね?」
どこどこ?と律がきょろきょろするから、あそこと指をさした。
「あー、ほんとだ。いたわ」
「でしょ?」
あーあ、また見たくもないもの見ちゃった。
まるで神様に『さっさと諦めろ』って言われているみたい。
そうできたらそうするけど、できないからこんなに苦しいのに。
わたしはいつまで、こんな気持ちを味わわなければいけないんだろう。



